数学の本の選び方

ここでは, 日本語の数学の専門書に限った話を書きます.

日本で出版されている日本語の数学の専門書は, 内容, 紙質, 製本, 値段をトータルで見ると, 世界最高水準です. これらは, 印刷・製本会社, 出版社(編集者), 著者たちによって支えられています. その方々の努力に敬意を払う意味でも, 必要な本(常に読める場所に置きたい本)は, 極端に高価であるものや, 絶版になって入手できないもの以外は, できる限り購入するようにして下さい.

数学の専門書もそこそこの数が出版されており, それをすべて読むのはいろいろな理由で不可能です. ここでは, 初学者の人があまり失敗をしないような方法を書きます. ただし, ここに書いた通りに数学書を選べば, うまく行くという保証は全くありません. また,「失敗を通じて学ぶ」というのも, 生きていく上では重要な体験であることは 知っておいて下さい.

出版社を選ぶ
良い数学の本を作るには, 良い著者が必要です. 良い著者が 数学書をすぐに書いてくれるかというと, それは否です. 残念ながら, 数学の専門書は (ごく少数の例外を除いて)それほど売れるものではありません. 著者から見た場合, 書くのに費やす労力と得られる利益を比較すると, ほぼ確実に赤字だからです. 従って, 出版社(実際にはそこに属する編集者)はそのような著者を説得して数学の本を出版しています. そのような説得ができる(説得される価値のある編集者を雇っている)出版社は, 限られます. 私のまわりにある数学書の出版社は, 以下の通りです.


岩波書店, 共立出版, 朝倉書店, 日本評論社, 培風館, 東大出版会, 牧野書店, シュプリンガー・ジャパン, 数学書房, サイエンス社, 裳華房, 学術図書出版, 森北出版, 実教出版, 紀伊国屋書店, 東京図書, 現代数学社, 筑摩書房


これらの出版社の中には, 最近は数学書の出版をほぼ止めてしまったところもあります. また, 講談社のように過去(50年前)には(英語の)数学の専門書を出版していましたが, その後,全く手を引いたところもあります. 最近, 筑摩書房が文庫本の専門書を多量に出しています. 本の内容の質は高いのですが, 文庫本では, 本格的に勉強するにはつらいものがあります. 上記には, 抜けている出版社があるかも知れませんが, 初学者のうちはこれらの出版社の本だけで 十分です.


著者を選ぶ
良い著者をどう選ぶかというのは, 難しい問題です. きちんとした 専門書の著者は, 立派な学者ですので, 本の内容に問題があることは稀です. 良い悪いは, 読む人との相性であるともいえます. 初学者の間は, まず, 次の事に注意してみて下さい.


数学系の大学・大学院を出た大学の(元)先生が著者である.


専門書には, 本の最後の方に著者の略歴が書かれていますので, それで確認します. 上に挙げた出版社でも, 数学以外の専門(物理系とか工学系)の著者が書いた (主に応用向けの)数学書が出版されています. これらの多くに共通する欠点が, 「雑な議論が多い」ところです. 数学の上級者になると,「ここの議論は雑だが, それはこれこれの理由があるからだ」ということがわかるのですが, 初学者は, これができません. 初学者の間は, 数学の専門家が書いた基礎的な内容をしっかり勉強して下さい. 似た内容の本が様々な著者・出版社から出版されていますが, 図書館で読んでみて, 自分に合う本を選んで下さい.

予備校の先生が書いた本(キャンパスゼミシリーズ)が, 生協に平積みされていますが, いたるところにトートロジー(tautology)があり, 雑を通り越して「悪書」のレベルに達しております. あのシリーズで勉強してはいけません.

大学図書館には多くの数学書がありますので, 暇なときには図書館でいろいろ読んでみて下さい. 目的の本が具体的に決まっている場合は図書館の蔵書検索は有用ですが, なんとなく本を選びたい時は, 現場に行って手に取らないと判断できません. また, 新しい本が出てから図書館に入るまでには時間がかかることがあるのですが, 新刊書を見たい場合は, 那覇にあるジュンク堂書店(モノレール美栄橋駅近く, 旧ダイエー那覇店)に行けば, 置いてあると思います.

2021-06-22