数理科学科は数学を学ぶ学科です。人間が小さいときから数の概念をもっているように、人類はその誕生とほぼ同時に数の概念を持ち、数の観察を開始したであろうと思われます。ナイル河の氾濫や夜空の星座の変化の観察を通してそれぞれに関する知識が得られたのと同様に、数の観察からは簡単な数学が得られたと考えられます。
むろんそれは「微積分」のような高級なものではなく、数の加法において「a+bとb+aは等しい」というような簡単な規則に気づく程度のものであったのかも知れません。しかし、人間は情報を伝達する能力を備えています。一度獲得された知識は次々に後の人達に伝達され、知識は次第に増加します。現在までに蓄積された数学の集大成は人類の巨大な「精神文化遺産」の一つで人類の最大の誇りの一つと言えましょう。大学の使命は研究と教育にあると言われます。「研究」はこの文化遺産の増加のために寄与する努力です。また、「教育」は新人達と共にこの遺産の名作を共に鑑賞し後の人達にこれを継承伝達していくことです。
数理科学科は琉球大学の数学関係の全教員と共同の協力組織「琉大数学教室」を構成し、研究および教育の活性化のために全面的に協力しています。研究分野ごとに大きく分けた講座と称するものが3つあり、それぞれの講座においていろいろな分野の研究が行われています。以下に各教員の研究テーマを簡単に記載しておきます。教員紹介のページも参照してください。
- 基礎数理学講座:代数学と幾何学を中心とする数学の研究を行います。
[研究分野]群論、整数論、環論、代数幾何、位相幾何、微分幾何、複素多様体等
- 数理解析学講座:変化の数理を取り扱う広範な解析学の研究を行います。
[研究分野]複素解析、調和解析、 偏微分方程式、 関数方程式、 近似理論、 作用素環論等
- 情報数理学講座:情報に関連する数学理論の研究を行います。
[研究分野]確率過程論、 数理統計学、 組合せ論、情報理論、 符号理論、数理論理学等
大学で学ぶ数学のルーツは高校数学で学んでいますが、高校数学でまったく無かった新しいものがかなり入ってきます。その議論展開はきわめて抽象的で現代数学を始めて学ぶ者は殆ど例外無く挫折感を味わう経験を持ちます。ピカソのきわめて有名な「絵画」を見せられたとき、多分感じるであろう(と想像しますが)とまどいと同じようなことを多くの新入学生は経験します。2つの数a,bに対して、加法、乗法はそれぞれa+b、a×bで表わすのが小学校以来の常識ですが大学では+か×か分かりませんがとにかく「a,bにある種の“算法(☆)”を行って、第3の数cが得られると仮定しよう」というような調子で加法や乗法を抽象的な演算(☆)として扱います。「a☆b=a☆cのときb=cは常に成立するか」というような問題が課されます。“☆”がどんな演算か分からないのでむろん答えられませんが夢のような狭間をついて先生の講義はどんどん進んでいきます。「アー、ドウシヨウ!」
日本では数学科は大学によって分野にそう違いはありませんので、当数理科学科の場合もこれといって他大学の数学科と特別変わった分野が学べるわけではありませんがそれなりに特徴と思える所を述べてみます。当学科は本学の数学系の全教員が教育および研究両面での協力体制をとっていますので、広い分野を学ぶことができます。例えば、組み合せ理論、グラフ理論を学びたい学生は教育学部の教員の下で指導を受けることができます。1年生では小人数の基礎ゼミがあり、数学の本の読み方、その内容を要領よく発表する演習を体験します。2年次からは群論や位相空間等の抽象的な内容のものが多く課され、現代数学に早くなじんでもらうようにしています。3年次はガロア理論、位相幾何学、ルベーグ積分、確率統計学、組み合せ理論といった本格的な分野が毎年講義されています。しかしこの10年、社会の非常な変化にともなって、数学の状況も大きく変っています。数学の古典的な問題や理論の発展だけでなく、コンピュータを使うことで個々の具体的例が詳しく解明されて、抽象的と思っていた理論が具象化されてきました。また近年数学の専門家しか興味を示さなかったことが理論物理学に応用されていることを聞いた人も多いと思います。さらに、確率論の基本的な方程式が経済学の分野でも使われ始めているそうです。これらは数学というより数理科学という名がふさわしいようです。
そんな訳で、より幅の広い多くのニーズに対応するために、数学科は1996年4月より「数理科学科」という名で再出発いたしました。
近年、数理科学科への入学者は80%以上が沖縄県内出身の学生で占められています。入学定員中毎年女子学生は3分の1程度合格してきます。勉学については、円満な人格形成のため、一般教育科目習得にも力を入れています。またカリキュラムは時間的に余裕をもたせるために、必修科目を減らすことを常に心がけています。学生生活ついては各学年に年次長がいて、彼(or 彼女)を中心にいろいろな催しが計画され青春を謳歌しまた友情を深めています。勉学に励み、スポーツに汗を流し、コンパで酒を飲み、ときには恋を語らい、ときには涙をながし... けっこう有意義な学生生活を送っています。しかし、遊び過ぎて卒業延期の憂き目に会う学生もいます。こまった事です。なお、ほとんどが自家用車による通学ですが、交通事故の当事者になる者がたまにいるのは大変残念なことです。
「数理科学科を卒業した後は、やっぱり数学教員になるんですよね?」というのが、高校生のみなさんの多くが抱くイメージかも知れません。実際、数理科学科では教員志望の学生が多数いますし、数多くの卒業生たちが教員として活躍しています。数学の教員になりたい人にとって、数理科学科は最も自然な選択肢でしょう。
しかし、それ以外にも色々な可能性があるのだ、ということも同じぐらい知っておいて欲しいと思います。
たとえば、銀行、情報系企業(ソフトウェア開発、システムエンジニア等)、保険会社などが、実際に数理科学科の卒業生が選んでいる就職先の代表的な業種として挙げられますが、もちろんこれらに限りません(具体的な就職先については、最新の「受験生のための琉球大学案内(大学案内[冊子]を参照)」や「卒業生の進路」なども参照してみてください)。数学を修めた人材に社会が寄せる期待はますます強まっているようです。それは、民間企業を希望する学生のほぼ全員が就職できているという事実からも分かります。
さらに、大学院の修士課程へ進学する、という道もあります。修士課程では、指導教員の下で(標準的には)2年間かけて「修士論文」をまとめ上げることを目指します。琉球大学には「大学院理工学研究院」に数理学専攻の修士課程があります。「アクチュアリー」と呼ばれる(保険、年金、資産運用にかかわる)専門職を射程に入れたコースが特徴の一つで、毎年一定の実績を上げています。「より深く数学を学びたい」「就職後に役に立つ専門的な知識を身につけたい」といういずれの要望にも対応できていると言えます。